雪を撮る

雪はフォトジェニックである。雪の日は景色が一変する。「引算」でも述べたように雪は余計なごちゃごちゃを隠して画面を単純化してくれるからである。そこにあるのは光と影、モノクロームに近い世界である。水の一形態である雪は単なる寒い冷たいではないもっと多様な性格を持っている。顕微鏡で雪を見た人は芸術的とも言える美しく多様な世界に驚くに違いない。
こんなことを言っては大雪に悩む雪国の人に申し訳ないが、残念なことに今冬は首都圏ではまだ雪が無い。ここでは昨年までに撮り貯めた写真を使って私の眼で見た雪を取り上げてみよう。

一昨年の大晦日、昼から雪になった。地元の氷川神社に出かけた。除夜の鐘と共に始ま初詣の準備で僧侶が雪の境内を行き来していた。新年を迎える前の期待と緊張に満ちた静けさ、そんな雰囲気を感じて頂けるだろうか。
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私の住む見沼の台地には昔からの豪農の屋敷がいくつもある。屋敷の多くは立派な長屋門を構え、その前には畑が広がる。屋敷の北側は広い屋敷林があって風を遮る。雪の日の静かな佇まいをあえてシンメトリーに切り取った。色の乏しい風景が日本画を見るような静的な感じに仕上がった。
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雪面の光と影は斜光によって強調される。次の画面では雪上がりの斜面に射す朝の光が画面を斜めに切ってダイナミックな構図になった。斜光による雪面の細かな凹凸の描写も見逃せない。遊ぶ人と犬の動きも点景と言うよりは主題となって画面を活き活きとさせた。
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雪の白さは青空によくマッチする。次の作例は平凡だが青空をバックに前景、後景の雪木立を浮き上がらせて雪の朝の爽やかな印象を絵にした。雪は空より明るいから露出がオーバーになって雪の質感が失われないように注意する。
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逆光の美しさも捨て難い。次の作例は細かな枝についた氷雪を逆光で捉えている。この場合暗いバックが効果的である。
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白いモノクロームの雪には花や実の美しい色を純粋にみせる効果がある。次の二点は年を越して木枝に残る渋柿を撮ったものだが遠景の農家も入れて日本的な郷愁をそそる風景写真になった。一枚目は雪を被った柿に重点を置いて遠近感を強調し、二枚目はあえて平面的に捉え日本画的な美しさを狙った。降り続く雪の描写は画面に情緒を与えてくれる。
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これは高原のナナカマドを撮ったものだが、粉雪の舞う冷たい空気感が平地の写真とは明らかに違う。ナナカマドの赤い実は何時までも残り、色の乏しい冬の山で撮影のチャンスを与えてくれる。植物の実は雪の中の色として貴重である。身近な例ではナンテン、センリョウ、マンリョウ、サンシュユ、イイギリなど沢山あるが風景写真として捉えることは結構難しい。
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常緑のサザンカや椿は強烈な色彩で冬の花の王者である。雪を被った姿は冬の写真の定番と言ってよい。ここには示さないが雪の上に落ちたサザンカの花びらや、椿の花も美しい花鳥風月の世界である。
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関東など太平洋岸では春先に雪が降ることが多い。昨年も春の彼岸に雪が降った。ハナモモに降る雪を狙った。何枚かのショットの中に雪片が大きく写り込んでいるものがあった。やはり迫力が違う。こういう写真は狙って撮れるものではない。でも多くのシャッターを切ることがその確率を高めてくれる。雪降りの写真は透明ビニール傘、レンズフード、レンズ拭きクロスが必携である。特にこの例のような仰角撮影は注意が肝要である。
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梅と雪も冬から春への季節の表現の定番である。中でも蝋梅は年明け早々に綻び始める。独特の艶のある透明な花弁も青空に映える。この写真は蝋梅の木のある環境を描写することにポイントを置いた。
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次の例では美しいとも言えない枯れたオオバコの花穂についた融けかかった霜をテーマにした。融ける霜は温かさの表現である。ぼけてはいるがバックの雪の休耕田にも春の陽射しの確かな暖かさが感じられる。
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光と影の織りなす雪面の描写は写真の醍醐味である。ここでは平凡ながら春の陽射しと融ける雪田をテーマに選んだ。
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最後の一枚は何処にでもある公園の風景である。春、一番に芽吹く柳、その影が雪の融けた水溜りに映っている。花は無いが柔らかな早春の息吹きを感じる。
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さて雪の写真を見て寒い冷たいだけだったろうか?いやそんなことはない。雪は寒いばかりではなく温かさも兼ね備えている。動物や植物や昆虫を低い気温や風から柔らかく守ってくれるからである。太陽の光が射す雪面では水の分子の微妙な躍動をすら感じることが出来る。水は大きな比熱を持っているし気化熱や融解熱によって常に気温をコントロールするように働いている。水はすべての生き物の母である。そんなことを考えながら温かい写真を撮りたいと願っている。
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by namiheiki | 2006-01-14 16:02 | デジカメ談義
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