クリンソウは学名Primula japonica、プリムラ属の植物である。この仲間には有名なサクラソウも含まれる。日光の中禅寺湖畔に自生するものを今では個人が保護育成している。一昨年6月に訪れる機会があったがそれは見事な群落だった。もう日は傾いて林の中は薄暗かったし湖からの霧も迫って来た。でもデジカメ一眼レフ28ミリ広角(35ミリ換算)で全容を写し込むことが出来た。幸いこの花はかなり大きな部類なので一番手前の花にピントを合わせてもバックのほぼ全体にピントが行きわたった。花の細部の形を描写しなお且つ群落の全体を表現するには広角レンズが必須である。写角が広いだけでなく焦点深度が深いからである。この時のレンズから手前の花までの距離は1メートル強だっただろうか、これより近寄ればバックがぼけて描写が不足するという限界だった。花だけ大きく撮ることはそう難しいことではない。でも同時に環境を写し込むことはそう簡単ではない。
余談だがこの写真はアメリカの学術書出版社から掲載許可の依頼があった。なんでもクリンソウは皮膚疾患を起こすらしくその本はDermatology(皮膚病学)の専門書だった。 このニリンソウの群落には上高地の明神池近くで出会った。群落全体を写したい、しかしそれだけでは迫力に欠ける。あまり大きくはない花そのものを大きく描写したい。苦肉の策がコラージュである。画面中央下部の比較的大きな花は同時に撮った別のショットからコピー&ペーストした。これで画面に奥行きを出すことが出来たと思っている。こんな小細工が良いか悪いかは人によって評価が分かれるところだろう。 次のカタクリは有名な栃木の群生保存地区で撮ったものだ。この場所は中心部にあり誰もが狙う場所でもある。これも手前の花に同じような細工がしてある。どの花がペーストか当ててみるのも一興だろう。 日光で見かけたトキワナズナ、一名雛草とも言われる北米原産のアカネ科の植物。直径1センチそこそこの小さな花である。大きな群落に見えるが奥行き2メートルほどのものである。多少カメラを引いて(数十センチ)全体を描写した。光の当たっているところと影の部分が斜めに区切られて単調から救われた。花だけでなく一部花茎が林立して見えているところも気に入った。 何処にでもあるオオイヌノフグリ、田の畦の斜面のごく小さな群落だが撮りようで大きく見える。小さな花のマクロ撮影にもかかわらず青い空をバックにしたスケールの大きな写真になった。カメラは最近ゲットしたNikon Coolpix S4だがこのカメラは広角側(38mm)で4センチのマクロ撮影が可能でこうした撮影には好適である。 ヒメオドリコソウもごく小さな花だが、ここでは花を大写しすることは諦めて群落の表現に切り替えた。この草の特徴ある姿が群生によって強調された。遠景の田園風景も環境をよく表わしている。 ノボロギクに興味のある人は多くはないだろう。キク科だが舌状花が無く目立たない。でもみすぼらしい綿毛が美しく見える時期がある。傾斜地の群落だったので奥行きを出すのに好都合だった。でもバックが物足りない。折りよく通りかかった通学途中の女学生の自転車を入れた。誰も振り向かない平凡な風景にもかかわらずなんとなく夢のある画面になった。 このように傾斜地は画面の奥行きを出すのにしばしば好都合である。湿った土手の斜面に自生するチガヤだが手前の斜面と遠くの斜面が斜めに交差してダイナミックな立体感が出た。 畑の畦のような小さな起伏でも同じ手法が使える。さして大きくないイヌタデの群落だが畦の小さな段差を利用して変化をつけた。地平線の林や雲を入れることで風景写真になった。 珍しいキツネノカミソリの自生地だが手前の花をクローズアップしながら斜面を利用して立ち上げたバックに群落を取り込んだ。この場合バックが適当にぼけることで主題の花が生きた。 平坦な場所でも花の背丈があれば主題の花を強調しながら群落の広がりを表現することは可能である。次の写真は平らなヒナゲシ畑でのショットである。バックはアウトフォーカスだが雰囲気は十分に伝えている。 小さなレンゲソウをクローズアップしてかつ群落や環境を伝えることが出来るだろうか?次の例は小さな花のクローズアップにもかかわらず背後の群落や農家の屋根まで取り込んでいる。小さな焦点距離を持つデジカメにして始めて可能な表現である。信じられないかも知れないがこれは嵌め込みではない。 ぼかしついでにここでは意図的に望遠レンズを使って群落を表現した例を挙げる。菜の花の群生の一点にフォーカスして前後はぼけている。ムード派好みで私はあまり好きではないがこんな撮り方でも群落を表現することは出来る。 最後の数例はオーソドックスな群落の撮り方である。ホトケノザ、イヌガラシ、ナズナ、ナノハナ、ラベンダーの例を挙げる。個々の花の詳細描写にはこだわらず群落全体を見渡す。撮影は難しくは無い。ある程度カメラを引き、俯瞰位置で奥行きを出す。2、3メートル先にピントを合わせると画面全体にピントが行きわたる。定型的な写真になるからここでものを言うのは遠景に何を持って来るかだろう。雲をポイントにするのでなければ空はなるべく控え目に入れるのがよい。人、家畜、電車、林、田園など季節感や生活感のあるものを入れたい。 必ずしも有名な観光地にシーズンの人混みに押されて行くことはない。どんな花でも群落を形成することで素晴らしい景観を生み出す。休耕地やちょっとした空地にある日あっという間に野草の群落が出現して驚くことがある。野草の生態系は年毎に変わる。二年と続けて同じ群落が現れるとは限らない。だから毎年足で探すしかない。写真は足で撮ると割り切ることである。目的を持って歩くと苦にならない。何より歩くことは健康に良い。
by namiheiki
| 2006-03-22 15:39
| デジカメ談義
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